ジッダ案内(第2回): 知られざる数々のエキサイティング・スポット ― 手つかずのまま残る自然とダイビングの最後のフロンティア ―

令和3年10月6日

直径10メートルの巨大円柱型水槽

 2019年、ジッダの玄関口、キングアブドルアジーズ国際空港がリニューアルされました。現在、ほぼ全ての国際便と国内便がこの新ターミナルから離着陸しています。そして、このターミナルに到着する旅行客がまず圧倒されるのは、高さ14メートル、直径10メートルに達する巨大円柱型水槽。ここに蓄えられた100万リットルもの水の中では、世界最高レベルの透明度を誇る紅海に生息する約65種類のお魚が悠々と泳いでいます。
 
 
ジッダ空港新ターミナル(写真:サウジ国営通信)

ダイビング最後のフロンティア

 今回はこの紅海を始めとするジッダの魅力的なスポットを見ていきましょう。
 
 サウジの在留邦人の皆さまの中には、リヤドからジッダへ、一路、ひたすら車を飛ばして旅行されたという強者もおられることでしょう。その旅の疲れもあるのかもしれませんが、リヤドからジッダに来た方々に、どっちが暑い?と尋ねると、「体感温度はジッダのほうがずっと上ですね」という答えが多く返ってきます。平均気温はリヤドの方が高いのですが、紅海との近さゆえのジッダ名物の高湿度がかなり体に応えるようです。
 
 少しデータを見てみましょう。まず、ジッダは北緯21度28分(同緯度の都市は香港、ホノルル)、東経39度10分(モスクワとほぼ同経度)に位置しており、日本との間には6時間の時差があります。サウジアラビアの気候は一般に高温乾燥砂漠性気候と言われていますが、国土が広大で地理条件も様々であるため、地域によって大きな差があります。ジッダは紅海に面しているため、一年を通して高温多湿、最高気温の年間平均は30℃を超え、また、各月の最高湿度は91%にもなります。2010年6月には観測史上最高の51℃が記録されましたが、直近2020年の最高気温は9月23日の45.6度となっています(同年の最低気温は1月11日の16度。)。

 ジッダの年間降雨日数は例年10日前後とされており、その時期は、11月から3月、特に年末年始の時期に集中しています。2009年及び2011年の冬に集中豪雨による大洪水が発生し、死者・負傷者を含む多くの被害が報告されましたが、その後は大雨による被害は発生していません。近年では2019年及び2020年のそれぞれ12月に大雨が観測されました。
 
 こうしたデータだけをみると、気候の厳しさだけがイメージに残り、住みにくい街なのでは、と考えられるかもしれません。しかし、ジッダとその周辺の紅海沿岸地域には、こうした厳しい気候を補って余りある魅力があります。
 
 まずは、冒頭で御紹介した、この世界最高レベルの透明度を誇る紅海。手つかずの自然が残り、ダイビング・ファンにとっては文字通り「ダイビング最後のフロンティア」です。新型コロナ下でも数多くの運動系サークルを誇るジッダ日本人会の中でも、「ダイビング・サークル」はとりわけ 活発な活動を続けています。紺碧の海中では、カラフルで壮大な岩礁に囲まれながら、沈没船や無人島が探検できるほか、カクレクマノミ、サージェントメジャー、エイ、ウツボなどが見られるとされています。

 このほか、毎年春先には、紅海中の豊かな珊瑚礁が、紅海で回遊しているジンベイザメに格好の栄養源を提供しているとも言われています。いつの日か、この最大の魚類の雄大な姿に驚嘆させられる機会が皆さまにもあるかも知れません。
 
 
コーラルブルーの紅海とそこに泳ぐジンベイザメ

バラの街ターイフ

 海といえば、次は山。ジッダから車で約1時間も東に向かえば、そこは山岳地帯ながら、世界で最も愛されるバラの街とも言われるターイフ。900を超えるバラ農家が毎春3億本を超える花を生産しており、収穫された花は町じゅうにある加工場に運ばれ、蒸留されて、ローズウォーターのほか、世界で最も高価なローズオイルが抽出されているそうです。毎年、ターイフの街がピンクと赤に染まる春が、一番よいターイフ観光のタイミングです。ちなみに、多くの野生のサルも有名ですが、食べ物はいいとしても、貴重品をひったくられることのないよう御注意を。
 
ターイフの山並み              ターイフの庭園(写真:サウジ国営通信)

何百年にもわたる歴史を伝える生きた博物館

 遺跡としては、第1回で世界遺産の「ジッダ歴史地区」を御紹介しましたが、ジッダ総領事館の管内であるマディーナ州(ジッダを擁するマッカ州の北側に隣接する州)にも見逃せない遺跡スポット、強い風が吹く広大なアル・ウラーがあります。ここには、2019年1月に安倍晋三元総理も訪問してムハンマド皇太子と会談していますが、ここは、アラビアの何百年にもわたる歴史を伝える生きた博物館。ユネスコ世界遺産のヘグラ、18世紀のヘグラの砦、ヒジャーズ鉄道駅、古都ダダン、ジャバル・イクマの岩に刻まれた碑文の「屋外図書館」。

 そして圧巻は、なんと言っても世界遺産マダイン・サーレハ。サウジに所在する5つの世界遺産の1つで。サウジ初の世界遺産として2008年に登録されました。ヨルダン・ペトラ遺跡を建設したナバテア人(紀元前2世紀頃から)が建設したとされ、4つの大きな墓地、装飾が施された墓石群、神殿、用水路、貯水槽等が保存されています。安倍元総理夫妻も、上記のアル・ウラー訪問に際してマダイン・サーレハを視察し、バドル文化大臣の案内で、そこにある「カスル・アル・ビント(女性の宮殿)」と呼ばれる墳墓を視察しました。
 
 2021年4月、ムハンマド皇太子により、国家的な開発計画である「ビジョン2030」の枠組みの下、アル・ウラー開発のマスタープラン「The Journey Through Time」が発表されました。この計画は、アル・ウラーの中心部、南の旧市街から北のヘグラ歴史都市までの約20キロの地帯に、それぞれが異なる特色を有する5つの地区を開発するものです。各地区間の移動には、持続可能な環境に配慮し低炭素技術を使用した列車が使用される予定であるほか、美術館やギャラリー、文化センター等の15の施設、そしてアラビア半島北西部の文明研究促進を目的とした科学センターであるKingdom Instituteの設立も予定されています。開発の第1フェーズは2023年まで。開発が完了する2035年までに新規雇用創出3万8千人、1,200億リヤルのGDPへの貢献達成が目指されています。
 
マダイン・サーレフ(写真:サウジ国営通信)

ストーンヘッジやピラミッドよりも古い遺跡?

 アル・ウラーの周辺ではまた、人類最古と目される遺跡の存在も確認されています(報道)。

 ウェスターン・オーストラリア大学の考古学専門家が率いる調査団によって、7千年以上前の先史時代(新石器時代)に遡る合計千以上の石造構造物が発見されました。これらの構造物は、アラビア語でムスタティール(長方形の意味)と呼ばれ、羊等の動物を供物として捧げるための宗教的儀式の場として用いられたものと考えられていますが、この類いでは人類最古のものの一つと考えられ、英国のストーンヘッジやエジプトのピラミッドよりも古いものとされています。
 
 厳しい気候というベールに隠れた様々な秘宝。その魅力を知れば、暑さや湿度も忘れて、むしろ紅海から届く心地よい風に心を洗われる感覚を抱かれるのではないでしょうか。
 
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