ジッダ案内(第4回): 進む開発プロジェクト ― 脱石油・脱炭素に向けた現代サウジの取組 ― 

令和4年4月24日
 第2回で御紹介したジッダの新たな玄関口、リニューアルされたキングアブドルアジーズ国際空港の新ターミナルの地下には、西はマッカ、北はマディーナに通ずる高速鉄道のターミナル駅が併設されています。サウジ鉄道公社が所有するこのハラマイン高速鉄道(ハラマインとは、アラビア語で2聖都、つまりマッカとマディーナを指します。)は、サウジのみならず、湾岸諸国でいまだ唯一の高速鉄道です。

 
ハラマイン高速鉄道(写真:サウジ国営通信)
 
 さて、このハラマイン高速鉄道沿いにジッダから北に伸びる紅海沿岸地帯では、様々な大型インフラプロジェクトや巨大プラント、革新的な先端技術の開発・応用が進む研究機関、そして未来都市の建設といった、変わりゆく現代サウジアラビアを象徴する一大プロジェクトが目白押しです。

最先端科学研究の拠点KAUST

 ジッダから北に約100キロにある都市トワル(Thuwal)。ここには、最先端科学研究の拠点、キング・アブドッラー科学技術大学(KAUST)があります。世界から一流の学者が集う広大なキャンパス、教員・学生が住む住宅に加え、ショッピングセンター、子供向けの学校、クリニックもある一大教育科学都市です。石油依存経済からの脱却と新産業の創造を目指したアブドッラー前国王によって2009年に開設され、海外からも数多くの学生を受け入れています。授業料は無料で、毎年1回母国に帰るための往復旅費も学生に支給されているそうです。
 
 サウジアラビアの新聞やメディアでは、KAUSTの新しい成果が毎週のように扱われています。一例を挙げても、サウジ初の国産新型コロナ検査キットの開発、ゲノム科学分野を始めとする革新的医療分野での取組、紅海の深海底調査、太陽光エネルギーを始めとする代替エネルギー源の開発、AI(人工知能)やビッグデータの利活用、サウジ国内外のスタートアップ企業への資金提供、海水から電気自動車の生産に不可欠なリチウムを抽出する技術の開発など、KAUSTの取組は、医療、環境、脱炭素・石油、デジタルといった時代の先端を行く様々な分野をことごとくカバーしています。
 
 廃棄物リサイクル分野でのユニークな取組としては、KAUSTの教員と学生のボランティア数百名で道路のプラスチックゴミを回収し、回収したゴミをKAUST構内の道路用のアスファルトに加工し再利用するというイニシアティブ「Green Roads」が報じられました。その目標は、4R、すなわち、減らす(Reduce)、除く(Remove)、再利用(Reuse)、そしてリサイクル(Recycle)です。
 
 日本の大学との交流もあり、また、約10名の日本人教員・研究者も在籍しゲノム分野などといった数々の最先端分野で活躍されています。KAUSTと日本の大学・企業との連携が今後更に拡大していくことが期待されます。

 
海上から臨むKAUSTの風景と大学街の風景(写真提供:KAUST所属邦人研究者)

総工費約2兆円、世界最大級規模の石油精製・石油化学の統合コンビナート

 KAUSTが位置するトワルから更に約50キロ北の紅海沿岸にラービグという町があります。その郊外には、厳しいサウジの日差しの下で一面銀色に輝く広大な石油精製・石油化学の統合コンビナートがあります。これを運営しているのが、サウジアラビアの国営石油会社サウジ・アラムコと日本の住友化学の合弁企業、ペトロ・ラービグです。
 
 第1期の総事業費は約1兆円、ガソリンをはじめとする石油製品およびポリエチレン、ポリプロピレンなどの石油化学製品の製造が2009年に開始されました。2012年には、第1期に匹敵する総事業費をかけ、設備の拡張・高度化、住友化学独自の最新技術を導入した石油化学プラントを建設する第2期のプロジェクトが開始され、2016年から順次稼働を開始しました。ナフサ、灯油、軽油、重油など、様々な石油精製品と石油化学製品が生産されています。
 
 文字通り、中東最大規模の日本企業投資案件の一つで、日本とサウジアラビアの強固な経済関係を象徴するプロジェクトとなっています。
 
 
ペトロラービグの様子(写真提供:住友化学)

経済都市KAECと太陽光発電

 ラービグの南30キロほどの紅海沿岸に位置するのがキング・アブドッラー経済都市(KAEC)。国際的なビジネスを誘致するために2005年に開発が始まり、世界各国から多くの企業が進出しています。近年では中東屈指のゴルフクラブやモータースポーツパークといったレジャー施設も注目されています。
 
 KAECの周辺では、日本企業も参画する太陽光発電事業が進んでいます。2021年4月には、日本の丸紅がサウジ企業と共に太陽光発電事業を担う合弁会社を設立、最大出力300メガワットの太陽光発電所を建設中です。サウジアラビアは、2030年までに発電に占める再生可能エネルギーの割合を50%にする目標を掲げていますが、その脱炭素に向けた取組に貢献することが期待されています。

日本とサウジの合弁企業が航空機材料スポンジチタンを生産、日本にも輸出

 ジッダの北約350キロ、ジッダのあるマッカ州の北に隣接するマディーナ州の紅海沿岸にはヤンブーという町があります(ヤンブーは、「泉」を意味するアラビア語です。)。ここでは、日本の東邦チタニウムがサウジ企業と合弁会社を設立して、2019年9月からスポンジチタンを製造する工場が運営されています。スポンジチタンは主に航空機用に使用される材料です。ここヤンブーで生産された製品は、2020年1月から日本を含むアジア、米国、欧州へ出荷されています。
 
 工場の中では、東邦チタニウムの日本国内の工場で研修を受けた多くのサウジ人技師達が日本人の技術者と手を携えて働いており、ビジネスを通じた日サウジ両国での人材育成のサクセスストーリーの1つとなっています。
 
 
 サウジ人と日本人のスタッフとヤンブーのプラント(写真提供:東邦チタニウム)

 以上、トワル、ラービグ、ヤンブーと見てきましたが、さらに北に目を向けると、100%クリーンエネルギーで稼働する未来都市NEOMの建設がヨルダン国境近辺、アカバ湾近くで始まっています。そこでは2025年のグリーン水素(太陽光等の再生可能エネルギーを利用し、二酸化炭素を排出せず製造される水素)の生産開始も目標とされています。
 
 このように、サウジ西海岸地区は、脱炭素・脱石油を目指すサウジアラビアの国家戦略が強力に推進されている地区とも言え、今後この地域は世界各国から熱い注目を浴び続けていくものと思われます。
 
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